専門家のアドバイスcolumn

古家空家を用いる=歴史のリレーに参加する

古家空家を用いる

 私は、建築設計者として独立して以来20年、付かず離れず、ご縁がある方の古い建物の改修、再生、転生に関わらせて頂きました。これから、既に其所にある建物=古家空家を、改修してなにかに使おうとされている方にとって、様々な心配、もしくは不明瞭なことを、解き明かし、お伝えしなければならない立場でもあります。現状の建物が使えるのかどうか、建築関係法令的にどうなのか、費用はどうなのか、様々な乗り越えなければならない命題があります。それらの一つ一つは、個別解が林立する世界です。一本一本の木々を確認しながら、古家空家の活用のフローチャートが完成されていくのだと思います。

 建築設計者として実際に関わらせていただいた個別解の改修案件を通して、ほぼ只一つ、共通して言える部分があります。それは、建て主、ここでは改修主と言った方がいいでしょうか、彼らは共通して、建物への愛情の持ち主した。実に単純なことでした。
「代々、先祖が住んできた家を、自分の代になって、建て直す、でいいのか?」
「当時は、子育て中で、あまりきちんと考えていなくて、でも今こういう風にすれば、より良くなるのではないか、と思って」
「こういう古い建物って、もう今は作れないから、大事にしたいですよね」
「この建物の歴史価値を尊重しながら、新しい現代的なデザインを添えてください」
「つまんない現代建築より、職人さんが手間をかけて作った建物って、迫力ありますね」

 皆さんいろんな表現をされますが、共通するのは、結局は、建物への愛情の類いです。古さはもちろん、ここではさほど問題ではありません。既に其所にあるモノ、に対する尊厳です。特に、改修の規模が大きくなり、建て直しと天秤に掛ける状況の場合にこのような尊厳の気持ちが、答えを導きます。コレを使った方が得か、壊して建て直した方が得か、といった、天秤の振れ幅とは別の判断基準です。ご自分の親族がお持ちのモノでしたら、普通にそれへの愛情を、そして、他人の残した古家に対してでしたら、博愛のようなものが、根底に座っています。根っこがそこにあるからこそ、その後の様々な問題、不明瞭を明瞭化していくプロセスにおいて、根気よく付き合われ、よく熟考されて、結果、古家を生き返らせる、という主になられるのだと思います。
こういう風に書くと、設計者は、改修主頼みな風に受け取られるかもしれません。でも実際、経験値からの予想はしながらも、見えない部分を含む既存物を扱っていく以上、本来的に改修は、新築よりも不明瞭な建築行為であることは間違いありません。だからこそ、日本の20世紀は新築市場主義として成長した、ということがあります。21世紀以降は、その逆のストック主義の世界を、私たち社会そのものが今当に学習中であるともいえます。

建物の構造と福祉利用の用途のマッチング

 なぜそうしてまで、改修主は、そのような不明瞭な古家再生に脚を踏み入れるのでしょうか。そのような愛情はどこから生まれるのでしょうか。これも各論的には個人のマインドセット(心の枠組み)に関わることなので、なんとも総括はしにくいものですが、強いて言えば、
建物に積み重ねられてきた、職人や、建て主の思い、もしくは素材そのものの存在をすくい上げる快感、のようなものではないか、と思います。私たちの「もったいない」の精神は、モノを介して、過去の人の心の隅々にまで行き届くことができるのでしょうか。
別な言い方をすれば、建物に潜在している歴史に、自分自身の歴史を積み重ねる、でしょうか。
歴史、とはこの場合、当時の使い方、と言ってもいいかもしれません。当時の使い方に、ちょっと改良を加えて、自分の使い道に合わせる。ちょこっとしたことは可変でありながら、大きな骨格が歴史を跨いでいく。例えが悪いかもしれませんが、バケツリレーの時の愉しみに似ています。私一人でやっているのではなく、皆で一つの目的のために、働いている時の、労働なのになんか愉しい、という心です。
建物の場合は、過去に建てた職人や使っている人はもう目前には居ません。ですが、それは、想像が像を結んでも結ばなくてもよくて、(想像することが愉しい?)大事なのはそのリレーに自分が参加、もしくは首謀している、ということです。おそらく、改修主は意識するしないにかかわらず、そのような歴史のリレーに参加することを愉しんでおられるのではないでしょうか。

 一つの建物が再生、転生していくには、改修主を始め、設計者、施工者、の少なからず、各役割に人間が必要になります。なるべく全ての人が、この類いの愉しみを分かち合える人であるならば、苦難があったとしても、それを乗り越え、より大きな愉しみに転じていけると、信じています。

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