空家の活用事例紹介works
nakashima home
なかしまホーム
築45年の一般住宅を障がい者のシェアハウスに
所在地 | 東区香椎駅東 |
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築年月日 | 昭和48年5月15日 |
構造 | 木造セメント瓦葺2階建 |
面積 | 1階 73.70㎡ 2階 34.78㎡ |
概況 | 平成17年、福岡市東区社会福祉協議会へ「福祉に役立てて欲しい」との想いにより寄附された建物。 |
利用実績
平成17年8月〜25年3月まで福岡市東区障がい者自立支援連絡会に、グループホームなどに入居を希望する方向けの宿泊体験、
緊急時レクリエーション的宿泊の場、課外活動の場として貸与。
経緯
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2015/12/10
東区社協より活用相談、なかしまホーム見学。活用先の選定開始
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2017/03/01
障がい者自立支援施設の社宅としての利用を検討
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2018/01/20
東区社協と「なかしまホーム」活用事業委託契約書、締結
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2018/03/09
福岡市の監察指導課 現地確認
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2018/04/16
東区社協と「なかしまホーム」活用事業委託契約書、締結
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2018/04/17
工務店より、近隣へ工事の挨拶 東区社協により自治協、町内会等、地域住民へ説明
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2018/04/20
改修工事開始
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2018/05/12
用途変更前工事 完了→検査(約2週間)
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2018/06/29
建築基準法に基づく排煙問題→追加工事を実施
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2018/07/08
漆喰塗ワークショップ(下地)
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2018/07/14
漆喰塗ワークショップ(仕上げ)
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2018/09/29
活用団体である、一般社団法人あきの会へ鍵引渡式
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2018/10/01
活用団体である、一般社団法人あきの会 使用開始
活用
活用事業者「一般社団法人あきの会」の声
みかんの樹(※みかんの樹とは、一般社団法人あきの会が運営する就労継続支援A型事業所)にて働く支援を始めて2年が経過し、継続して仕事が行えるようになった方が増えてきました。その為、安定して収入を得ることができるようになり、次のステップとして本人より1人暮らしをしたいが全て1人で行うことが不安との声や、親御様が親元から離れての生活を経験してもらいたいとの声が聞かれるようになりました。また、就労支援をしていくなかで、継続した就労を行うには、生活面も含めた包括的な支援の重要性を実感していました。その為、必要に応じて支援の行えるみかんの樹の近くにて、空家を改修し、共同生活が行える場があればと思い探していました。
なかしまホームに住み始めて、仕事場でもコミュニケーションをとることも増え、自主性が高まっているように感じます。また、生活面においても支援ができるようになったことにより、仕事面だけではなく生活面も含めたその方全体の利点・問題点を把握でき、より自立に向けた包括的な支援ができると感じています。
夕食の提供はみかんの樹にて行っていますが、その他の掃除や洗濯などの家事は本人達で行っています。また、夕食に関しては、時間を決めているわけではありませんが、自然にリビングに集まり一緒に話をしながら食事をしています。決まったルールの中で自主的に動いて生活できており、なにか困ったことがあった際などは、利用者同士でもコミュニケーションをとり、支援者に報告連絡相談することにより解決しながら生活が行えています。
利用者の声
Aさん:両親と一緒にずっと生活してきましたが、1年程前から、ひとり暮らしを行うことを考えていました。しかし、いきなり一人で生活をするということには不安がありました。そのなかで、なかしまホームができたことより、一度家を離れてまずはここでの生活を経験して次をどうするのか考えていこうと思いなかしまホームに入ることを決めました。
最初は不安でしたが、きれいな一軒家で住みやすく、夕食が頼めることと、風呂の時間やゴミを出す係などしっかり決まっていて問題なく過ごせています。また、1人ではなく他の人もいるのでリビングで話したりすることもあり安心です。周辺の環境も歩いていける距離に駅・スーパーがあるのでとても便利です。
Bさん:以前は、グループホームに住んでいましたが、みかんの樹で働くようになり通勤に時間がかかっていました。みかんの樹で働くようになり半年が経過し、今後もずっとみかんの樹で働いていきたいと思っている為、通勤を考えなかしまホームの利用を考えました。また、部屋も広く住み心地が良さそうであった為、なかしまホームの利用を決めました。ずっとここに住みたいと思っています。
改築前
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大切に使われてきたのでしょう。
建物の保存状態は良好でした。 -
壁も床も建具も時代を感じさせます。
木造戸建て住宅の用途を変更して福祉団体の社宅にしたいと聞き、実際に現地を訪れてみました。築年数はそこそこ経ってはいますが、きれいにメンテナンスされた住宅でした。特に豪邸というわけでもなく、正直なところ文化的価値が高いというわけでもありませんでした。見た目で言えば、のび太くんやドラえもんが住んでいそうな昭和の住宅、といえば分かりやすいでしょうか (笑)。
話を詳しく聞くと、軽度の障害がある方が4名住まわれるということでした。単独ではアパートを借りることが難しいため、福祉団体の方がサポートしているとの話を聞き、素晴らしい活動をされているなと思ったのと同時に、世の中には隠れた問題がまだまだ沢山あるのだな、と思ったのを覚えています。
市役所に行き、社宅の扱いについて質問したところ、「寄宿舎」扱いになるとの返答をもらいました。木造戸建住宅を寄宿舎などの特殊建築物(一般的に不特定多数が利用する建築物の多くは特殊建築物として指定されます。)に用途変更することの難しさやわずらわしさも今までの経験で分かっていましたので二の足を踏みそうにもなりましたが、団体の方々の思いを伺い、自分も何か少しでも貢献できればと関わらせていただくことにしました。
またそれ以上に、近年空き家問題が建築界のみならず社会全体をも賑わせ始めていて、今後空家の割合が増加し社会問題化することへの認識もありましたので、今回こちらをモデルケースとできるのでは、と考えたことが大きいかもしれません。今後このように、普通の住宅が空家になっていく状況が普通になっていくのかもしれません。しかし普通に用途を変更し、普通に使い続けることができることができれば、空き家問題はもはや問題ではなくなるのですからね。
川上建築士
今回補強部分は、土壁を撤去し、45×90の木筋違を入れました。
分かってはいるものの、土壁の撤去は困難です。
赤土と竹が絡み合い、マスクをしても粉塵を防ぐことは難しいです。
更に土台・桁・梁を繋ぐ必要があるため、多くの箇所で天井・床まで解体しなければなりませんでした。
今回は天井裏に断熱材を入れる必要もあった為よかったのですが、このことが一般的に耐震改修工事費用を上昇させる要因となっています。
今後は、天井・床を撤去することなく面材を補強するなど、より簡単で、費用の抑えられる工法(あまり普及していません)も取り入れようと考えています。
稲葉工務店 稲葉嘉行
改築作業
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今回は建築用途変更が必要なので
監察指導課による事前チェック -
天井を開けてみたら・・・
断熱材が入ってませんでした
特殊建築物に用途変更する場合、100㎡を超えると用途変更の申請手続きが必要となります。その際、既存建物が適法状態にあるかどうか確認されます。今回に限らず、古い建物の改修の話があっても建設当時の図面や確認済証などの書類が残っていることは非常に稀です。それらが残っていない場合、現地を調査し現況図面を作成。適法かどうかをチェックします。調査の結果、なかしまホームは違法状態にあることが分かりました。
違法部分は構造耐力の不足と屋根の増築(無申請)という内容でした。適法な状態に戻すため、増築された屋根を撤去し、構造耐力を補うため筋交いで補強しました。今回大変だったのは、構造耐力が不足していたことです。一言で筋交いを設置すると言っても、壁のみならず一部天井や床も剥がさないと工事ができませんから、結構大掛かりなものとなりました。ちなみにここまでの工事は用途変更に関わるものではありません。建築の施工状況を確認するためのものです。その後用途変更に向けた工事に進むことになります。将来改修をお考えの方、いや、そうでない方も、くれぐれも建設当時の図面や書類を大切に保管しておいてください (笑)。先ほど用途変更の難しさやわずらわしさ、という言葉を用いましたが、これは単に作業が大変という意味ではなく、本来ならば必要ではない時間や費用がかかるということを意味しています。
用途変更に向けた工事というのは、用途を変更しますので、今度は寄宿舎という用途に合わせて必要な工事をしていくことを指します。当然ですが、一般的に戸建住宅よりも特殊建築物である寄宿舎の方が規制が厳しく、戸建住宅にはない規制を一つひとつクリアしていく必要があるからです。今回は主に防火・避難規定をクリアしていくことが主な課題となりました。緩和規定なども市役所や消防署と確認しながら、最終的に適法な状態で寄宿舎へと用途変更し、使用開始へと至ることができました。
川上建築士
玄関・廊下・2階の部屋は、共にジュラク・繊維壁でした。
特殊建築物への変更となる為、壁を難燃仕様とする必要があり現状の壁の上に、新たな壁を作ります。
木下地(貫材)を入れて、プラスターボード(石膏ボード)を貼るのですが既存壁に凹凸があり下地調整が大変です。
2~3㎜のパッキンを入れながら一つずつ壁の通りを確認しなければなりません。
手間と時間のかかる作業となりました。
古家ではエアコン専用コンセントがない部屋が多々ありますが、なかしまホームもご多分に漏れず3台分の追加となりました。
当然アンペア数の変更になります。
古家の改修工事に電気工事は必須です。
稲葉工務店 稲葉嘉行
漆喰WS
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建築士の模範演技に注目が集まります。 -
皆さん、だんだんと慣れてきましたね。
古家を新しくしたい、という時に床、壁、天井といった内装を新しく仕上げなおすのは極々基本的なことかと思います。どんな工法であっても、それなりに綺麗になるのですが、古家であるからこそ、もう少し頑張って、この古家に新築以上のプレミアを与えてあげて上げたいと考えてしまいます。
ビニールクロスが当たり前となった現代の住まいの常識の中で、ここでは漆喰壁~天井を、標準仕様として空家の再生をします。とはいえ、単価はおよそ3~4倍。ビニールクロスが¥1000/㎡だとすれば、漆喰は¥3000~¥4000/㎡になります。このままでは、コスト的に採用できません。そこで、ワークショップ形式による、漆喰塗りを企てることになります。
なかしまホームの場合は、社協の方々、あきの会の方々、その実際の入居者、社団の関係者、そしてそれぞれの知り合いが、あちらこちらから、2日間で総勢??名の方が漆喰塗りを手伝いに来てくれました。もちろん、始めて漆喰を塗る、という人ばかりです。彼らを指導しながら、実際の住まいとして引き渡すのはなかなかのトライアルでもありますが、請負工事の値段の半分ぐらいで納めることができるということで、この場が生まれます。
素人っぽさ、の反面、みんなが手弁当で汗を流した「思い出」のようなものが建物に刻印されます。所有者や入居者が、参加されることによって、将来は自分でメンテナンス、塗り足しができるようになります。さらに、ワークショップは事前に告知され、そこが何に生まれ変わるかということを、周辺の住民の方々にお知らせし、公開される機会にもなります。塗り壁の性質は、呼吸する壁ゆえの、体験してみないと判らないなんともいえない心地よさがあります。漆喰塗り壁は、コストのことを解決することができれば、本当かなと思うほどに、いいことづくめなのです。
高木建築士
完成
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和室だった床もフローリングに。
漆喰が塗られて、部屋も明るくなりました。 -
建具も壁もまるで生まれかわったみたいです。
今回なかしまホームの改修・用途変更に携わって感じたことは、所有者や利用者の理解があって初めて可能だった、ということでした。戸建住宅を社宅(寄宿舎)として使用することは、物理的にはほとんど変わっていないように見えます。和室が洋室になり個室化されたという点を除いては間取りもほぼ以前のままです。内装は漆喰塗りワークショップのおかげもあり、明るく健康的に様変わりすることができましたが、今回の工事のほとんどは目に見えない部分(構造体や壁面の下地の不燃化、避難や消防に関わるものなど)であり、こういった部分にお金をかけることを理解してもらうのはなかなか難しいのが現状です。改修するのであればキッチンやお風呂を新しくしたい、内装や外観をきれいにしたいというのが人情。そこをぐっと飲み込んで、安全や安心というものにお金を使う決断をして下さった関係者の方々に感謝しています。
とはいえ、空家の福祉活用における今後の課題もその一点に尽きると思っています。無駄をどれだけ省き、生活の質を上げるためにいかにお金を使えるようにするのか、それが設計・施工サイドの課題であると思います。様々な工法が開発されて来ている現在、それを日常から学び習得することが重要だと感じます。
それからもうひとつ、コストの見える化ですね。改修工事は新築工事と異なり一度剥がしてみないとわからない部分が多く、用途や規模、改修内容によって大きく工事費等が変動するため初期段階でコストを提示することが難しくなります。所有者や利用者の一番の関心事はお金であることがほとんどですので、事例を積み重ねながら経験を増やし、ある程度改修内容を規格化することで改修コストの見える化を図っていくことが重要だと思います。
空家の利活用が普通となる時代に向けて行政も動き出し、制度も変わろうとしています。我々も常に変わり続ける情勢に目を凝らし、耳を傾け続けなければいけませんね。
川上建築士
改めて思うのは耐震改修工事の困難さです。
古家と耐震はワンセットなので必ずやらなければなりません。
1ヶ所の壁を改修するのに、壁だけではすまないので費用がかさみます。
最近になり少しずつ国に認可された工法(壁天井を壊さない)が出てきているので積極的に取り入れていこうと思います。
稲葉工務店 稲葉嘉行